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まちかど情報4回目~伏見稲荷大社の千本鳥居

 今回のまちかど情報は京都にある伏見稲荷大社についてです。

 

 私は仕事の関係で時々関西に行く機会があるのですが、なかなかゆっくり観光する時間までは取れませんでした。今年は10月半ばの関西での私の仕事に合わせて、夫も遅い夏休みを取るというので久しぶりに京都旅行を楽しむことにしました。

 

 伏見稲荷大社のことは約10年前に「そうだ、京都行こう」でおなじみのJRのコマーシャルで知りました。真っ赤な鳥居がずらっと奥まで続く幻想的な映像にとてもひきつけられて、一度行ってみたいと思っていました。

 

 京都駅からJR奈良線に乗って5分ほどで稲荷駅につきます。駅を出るともうすぐ目の前に伏見稲荷大社の鳥居が見えてきます。私たちはお参りの前に「祢ざめや」という、1540年創業、昭和初期に建て替えられた建物のお店でお昼をいただくことにしました。店先で焼く、三河産のウナギの匂いにひきつけられて、私たちも白焼きと肝焼きを注文しました。外はサクサク、中はふんわりの焼き立てのうなぎの味はちょっと忘れることができません。他にサバずしと太巻きとお稲荷さんの盛り合わせも頼んだのですが、名物と言われるお稲荷さんより太巻きのほうがずっとおいしかったです。お参り前だというのに夫は伏見のお酒を3合も飲んでしまっていました。

 

 お昼も済んでいよいよお参り。伏見稲荷大社の境内は稲荷山という標高233メートルの山全体です。スタート地点にあたる本殿は重要文化財に指定されています。

 

 境内のあちこちに狐の置物があります。私は実はお稲荷さんというのは狐のことかと思っていましたがそうではなく、キツネは神様のお使いで、「眷属(けんぞく)さん」というのだそうです。正確に言うと、しろぎつねと書いて『白狐』、目には見えない生き物で、野山にいる狐とは違うのだそうです。

 

 稲荷山信仰は今から1300年も前に始まり、そんなに昔のことなので起源はこう、とはっきりはわからないようですが、奈良時代、この地方に住みついた秦氏という豪族がいました。この頃全国的に天候不順で作物の稔りの悪い年が続いたので、秦氏がご祈請をしたところ神様のお告げががあり、 ここ稲荷山に大神を祀られたところ、五穀大いに稔り国は富み栄えた、このお祭りした日が和銅4年(西暦711年)の2月初午であった、という言い伝えがあります。

 

 稲荷、という言葉は稲がなる、ということからきているそうです。それ以来五穀豊穣、商売繁昌、家内安全、諸願成就の神として、全国津々浦々に至るまで広く信仰されてきました。稲荷神社は全国に3万以上あり、この伏見の稲荷大社はその総本山であるということです。

 

 

 本殿を通り過ぎて奥に向かうとお目当ての千本鳥居です。

真っ赤な鳥居がずらっと隙間なく並んで、まるでトンネルのようです。

 

 「千本鳥居」の「鳥居」は願い事が「通る」ようにと願うこと、或いは願いが通った御礼の意味から、感謝のしるしとして鳥居を奉納することが江戸時代以降に広まってできたそうです。現在は約1万基の鳥居がお山の参道全体に並んで立っています。

 

 訪れた日は10月11日の平日で、緊急事態宣言が明けてまだ日が浅かったこともあり観光客は少なかったので良かったのですが、もし多かったら狭い鳥居のトンネルの中が大渋滞するだろうなあと思いました。少ないとはいえ入り口付近は人がいるのでさほど幻想的な感じもせず、こんなものか~と思いながら進んでいきました。鳥居にはそれぞれ奉納した人や会社の名前が、日付とともに書かれています。それを眺めながら進んでいくと有名な会社や、芸能人の名前がたくさん書いてありました。作家の村上春樹さんの名前も見つけました。

 後で調べたらこの鳥居の奉納は現在一基20万円から160万円以上するようです。それが1万本もあるなんて、お稲荷さんはお金持ちですね。

 

 千本鳥居を進んでいくと奥の院、それに続いて熊鷹社、という参拝所があります。熊鷹社の右側の、順路を外れたところには池があり、たくさんのお墓のようなものが集まっている場所がありました。墓石にあたる石には「白菊姫」とか「田中大神」とか書いてあり、その下に「阿部」とか「石田」とか人の名前が刻んであります。手のひらサイズの鳥居がだいたいどの石の前にも置かれてありました。

 

 かなり不気味な場所でした。園内マップにも載ってなかったので帰ってから稲荷大社に問い合わせたところ、稲荷山には信心する人がそれぞれ信仰する神様の名前を付けて建てた「お塚」というものがたくさんあり、私たちがお墓、と思ったものがそれだそうです。

 

 このあたりで引き返す人も多いようですが、私たちは頂上を目指します。進むにつれ、「イノシシが出ます」とか、「凶暴なサルの親子がいるので気を付けてください」とかいう張り紙があちこち張ってあります。

 

 標高233メートル、小さい山とはいえのぼりが続いてペースが落ちていたらしく、気づかないうちに夫と離れてしまいました。ふと見ると、周りに誰もいません。うるさいくらいの鳥の声と薄暗い山の中。上を見ても下を見ても赤い鳥居が続いています。怖くなって、早く夫に追いつこうと焦りますが、ちっとも姿が見えません。もしや隠れているのではと思って、大声で名前を呼んだり「出てこないともう引き返すよ」と脅したりしてみましたがやはりいません。本気で引き返そうと思った時、携帯電話という便利なものを思い出しました。

 

「もうすぐ頂上だよ~」と夫がのんきな声で電話に出たときは本当にほっとしました。お酒を飲んで山を登ったりしたので苦しくなって自分のことで手いっぱいになり、一生懸命上っていたら私とはぐれたそうです。

  

 稲荷山もうでを振り返って、夫が「あそこは怖かった、なんか絶対いる。」と言います。

 

 観光客がたくさんいればそんなことはないと思いますが、私も、怖かったです。でも1300年もの間、願いを込めてこの山に集まっていた人がどれだけいたか、考えてみればパワースポットであることは間違いないと思います。私とはぐれている間、夫が何かに取りつかれてしまってないかと怪しんでいますが、ひと月経っても尻尾も生えてこないし「こんこん」と鳴いたりもしないので、まあ大丈夫ですね。

 

 

 

 

以上、今月のまちかど情報は京都の伏見稲荷大社の千本鳥居について、でした。終わります。